昨日のブログでは、足元の凄まじい銀価格高騰について、「これは一過性のバブルではなく、構造的なスーパーサイクルが継続しそうだ」という考察をまとめた。
もしこの見立てが正しいなら、投資家として次にやるべき行動はシンプルだ。 「銀の高騰で恩恵を受けるはずなのに、まだ市場に評価されていない割安株(出遅れ株)」を探し出すこと。
メジャーな海外鉱山株はすでに高値圏まで買われている。どこかに、まだ市場が気づいていない、あるいは無視されている銘柄はないか…。
そうやってスクリーニングをかけていて、強烈な違和感とともに目に留まったのが、国内の製錬メーカーである東邦亜鉛(5707)だった。
現在の株価は949円近辺。PBR(株価純資産倍率)はなんと0.4倍程度。 歴史的な銀ブームの真っただ中にいて、国内有数の銀生産能力を持つはずの企業が、なぜ解散価値の半分以下で放置されているのか?
今日はその「歪み」の正体と、そこに潜む投資チャンスについて掘り下げてみたい。
1. なぜ株価は反応しない? 市場が懸念する「2つの重石」
市場が銀価格の上昇を無視しているわけではないだろう。それ以上に、東邦亜鉛特有のネガティブ要因を重く見ているのだと思う。主な要因は2つだ。
① オペレーショナル・リスク(小名浜製錬所の火災)
最大の要因はこれだろう。2025年9月、銀価格が上がり始めた矢先に、主力拠点の一つである小名浜製錬所で火災事故が発生し、操業が停止してしまった。 一番稼げる時期に生産が止まっていたのだから、直近の決算(第2四半期)がボロボロだったのも当然だ。市場は「また何か起きるんじゃないか」という疑念を拭えていない。
② ヘッジ戦略の失敗(デリバティブ損失)
製錬会社は通常、金属価格の変動リスクを避けるため、先物市場で「売りヘッジ」を行う。もし、東邦亜鉛が年初の銀価格(30ドル前後)で大量に売りヘッジをかけていたとしたら…。 今の実勢価格は70ドルだ。30ドルで売る約束をしていれば、その差額は莫大な「デリバティブ損失」として計上される。これが利益を食いつぶしている可能性が高い。
2. それでも「買い」かもしれない理由(見過ごされている変化)
しかし、ネガティブな要素ばかりではない。市場が見落としている、あるいは過小評価している変化もある。
① 製錬所はすでに再稼働している
小名浜製錬所は10月下旬に修復が完了し、操業を再開している。つまり、銀価格が70ドルを超えて急騰した11月〜12月の局面では、生産設備は動いていたのだ。この影響は次の決算以降に出てくるはずだ。
② 「ヘッジの罠」はいずれ切れる
ヘッジ契約には期限がある。古い(安い価格の)不利な契約が満期を迎えれば、新しい(高い価格の)市場価格で販売できるようになる。「ヘッジ損失が消え、実勢価格の利益が入ってくるタイミング」が必ず来る。それが2026年の前半なのかもしれない。
③ 銀は「スーパーサイクル」に入った可能性
今回の銀価格上昇は一過性のバブルではないかもしれない。太陽光パネルやAI関連機器など、価格が上がっても使わざるを得ない産業用途が急増している一方で、鉱山からの供給は追いついていない。この構造的な需給逼迫は、2026年も続くと見られている。
3. バリュエーション再考:アップサイドとダウンサイド
では、現在の株価は適正なのか?
結論から言えば、ファンダメンタルズから見て「不適正に安い」と思う。PBR 0.4倍というのは、将来にわたって赤字を垂れ流し、資産を食いつぶすことを前提とした評価だ。
ダウンサイド(下げしろ)は?
限定的だろう。すでに最悪のシナリオを織り込んだ株価水準だ。テクニカルなサポートや資産価値を考慮すれば、800円〜850円あたりが岩盤になるのではないか。最悪ケースでも450円付近が底だろう。
アップサイド(上げしろ)は?
もし、製錬所の稼働が安定し、ヘッジの影響が薄れてくれば、株価のリプライシング(再評価)が起こるはずだ。
- 保守的なシナリオ: PBRがディストレス水準から、少しマシな0.6倍程度まで修正されるだけでも、株価は1,400円〜1,500円が見えてくる。(現在比 +50%超)
- 楽観的なシナリオ: 銀の恩恵が業績にフルに反映され、PBRが0.8倍程度まで正常化すれば、1,900円〜2,000円もあり得る。(現在比 +100%超)
結論と投資スタンス
東邦亜鉛は今、「極端な不人気」と「歴史的な好市況」の狭間にいる。 現在の株価は、過去の失敗と現在のヘッジ損失を過剰に反映しており、未来のキャッシュフロー(銀価格70ドル時代の収益)をほとんど織り込んでいない。
リスクはある。次の決算でデリバティブ損失がどうなっているか、製錬所の稼働状況はどうか、確認すべき点は多い。
しかし、リスク・リワード(損失の可能性に対する利益の可能性)で見れば、非常に魅力的な水準にあると言える。長期的視点を持てるなら、ポートフォリオの一部に「銀価格連動の割安コールオプション」として組み入れてみるのも面白いかもしれない。


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