2025年も暮れようとしている今、金融市場にとんでもないことが起きている。
正直に言うと、少し前まで金(ゴールド)や銀(シルバー)の上昇なんて、「いつものサイクル的な値動きだろう」くらいにしか思っていなかった。上がればそのうち下がる。特に金なんて、退屈な動きの代名詞みたいなものだと思っていたから。
ところがだ。 金は下がるどころか、あれよあれよという間にオンスあたり4,500ドルの壁を突破してしまった。「さすがに調整するだろう」と思っていた銀も、その後を追うように急騰し、気づけば75ドルを超えている。
これまでの常識が通用しない動きに、「一体何が起きているんだ?」と強烈な違和感を覚えた。ただのバブルなのか、それとももっと根本的な変化が起きているのか。気になって徹底的に調べてみたところ、背後には想像以上に巨大な構造変化が隠れていた。
市場で今起きているのは、一時的な投機熱ではない。 「グレート・ローテーション(The Great Rotation)」と呼ばれる、ペーパーアセット(紙の資産)からハードアセット(実物資産)への、資本の巨大な移動だ。
忘れないうちに、その「真の理由」と株式投資への影響をメモしておく。
1. なぜ今、金と銀なのか?「パーフェクト・ストーム」の正体
株価が上がれば金は下がる、金利が上がれば金は下がる。そんな教科書通りの相関関係は、2025年に完全に崩壊した。今、市場を動かしているのは以下の3つの構造的変化だ。
① ドルへの信認低下と「通貨減価トレード」
最大の要因はこれだ。FRBがインフレ収束を待たずに利下げサイクルに入ったことで、米ドル指数(DXY)が約10%も下落した。「現金の価値が目減りする」と感じた投資家たちが、利回りよりも価値の保全を優先し、ドルを売って金を買う動き(Debasement Trade)を加速させている。
② 地政学リスクの「常態化」
ベネズエラ封鎖や西アフリカでの紛争など、緊張状態が劇的に高まっている。重要なのは「制裁」への反動だ。米国によるドル資産凍結リスクを恐れた中露などの中央銀行が、外貨準備を「米国債」から「金」へシフトさせている。中露間で10億ドル規模の金決済が行われたという報道は、ドルの覇権が揺らいでいる決定的な証拠だ。
③ 日本独自の「ねじれ現象」
我々日本人には特殊事情もある。日銀は12月、政策金利を0.75%(30年ぶりの高水準)に引き上げた。通常なら円高になるはずが、現実は1ドル=155〜157円の円安継続。「利上げしても円安が止まらない」という現実は円への不信感を招き、家計の資金を「円から金へ」と走らせている。
2. 銀(シルバー)に起きている「物理的な欠乏」
金がマクロ経済の通信簿だとすれば、銀の暴騰「物理的な在庫切れ」の結果だ。
- 5年連続の供給不足: 銀は銅や亜鉛の副産物として採れることが多く、急な増産ができない構造的な問題を抱えている。
- AIと太陽光が在庫を飲み込む: そこに爆発的な需要が加わった。新型太陽光パネル(TOPCon型など)への移行や、AIデータセンターの導電性確保のために銀が必須となり、使用量が急増しているのだ。
ロンドンやニューヨークの倉庫からは在庫が消え、中国では現物確保のために法外なプレミアムが支払われているという。物理的に足りていないのだから、価格が上がるのも当然だ。
3. 株式市場の「勝者」:鉱山セクターの復活
この貴金属ラリーは、株式市場に明確な勝者を生み出した。それは「掘る人たち(マイナー)」だ。
金価格が4,500ドルを超えたことで、採掘コスト(1,300〜1,600ドル程度)を引いた利益率は劇的に改善している。 世界最大の産金会社ニューモント(NEM)の株価は今年140%上昇し、記録的なキャッシュフローを株主還元に回している。銀鉱山会社に至っては、銀価格の上昇率が金を上回るため、決算発表のたびに急騰を演じている状況だ。
これら「上流」に位置する企業は、インフレヘッジと値上がり益の両方を享受できる稀有な存在となっている。
4. 株式市場の「敗者」:製造業のコストショック
一方で、金や銀を「原材料」として使う企業にとっては悪夢だ。特に、価格転嫁が難しいセクターでは利益が蒸発している。
- 太陽光パネルメーカー: 世界最大級のジンコソーラーなどは、「売上は絶好調だが、利益が激減」という典型的なコストプッシュ型の決算に陥っている。銀ペースト代が高すぎて、作れば作るほど利益率が削られている。
- 日本のハイテク・電子部品メーカー: 村田製作所、京セラ、パナソニックといった企業も苦戦中だ。AI需要や円安の追い風を、銀や金などの原材料高騰が相殺してしまっている。EVバッテリーや電子部品(MLCC)などは、銀の価格高騰が固定費を圧迫し、業績の下方修正リスクがくすぶる。
結論と今後の戦略:今から乗るなら「出遅れ」狙いか?
ゴールドマン・サックスなどの主要機関は、2026年末までに金価格が5,000ドルに達すると予測しているという。中央銀行の買い支えや各国の債務問題が解決しない限り、このトレンドは簡単には終わらないだろう。
我々投資家が学ぶべき教訓はシンプルだ。 「上流を買い、下流を避ける」
ただ、正直なところ、すでにニューモント(NEM)のようなメジャーな鉱山株はかなり上がってしまっている。今からそのど真ん中に飛び乗るのは、高値掴みのリスクもあって少し勇気がいる。
となると、現実的な戦略としては、まだ市場に評価されきっていない「鉱山系の出遅れ銘柄」を丹念にピックアップしていくぐらいが、今からこの大きな流れに乗るための賢い選択肢なのかもしれない。
2025年12月。世界経済のルールは完全に変わった。「グレート・ローテーション」の波はまだ続くと見て、アンテナを張り続けていこうと思う。
今から狙える「出遅れ」候補リスト(2025/12/27時点)
すでに年初来+200%を超えて垂直上げ状態にあるCoeur Mining (CDE)のような「主役」への飛び乗りは、高値掴みのリスクが高い。今、冷静に資金を振るけるべきは以下の2パターンだ。
- 米国株の「押し目」:Hecla Mining (HL) 株価は高値圏だが、過熱感(RSI)はすでに解消済み。「株価を維持したままエネルギーを溜めている」という、再上昇に向けた理想的な形状をしている。
- 日本株の「ド出遅れ」:東邦亜鉛 (5707) 本業(亜鉛)の不調ばかりが嫌気され、銀75ドルによる莫大な「副産物益」が完全に無視されている「灯台下暗し」銘柄。PBR0.6倍台での超割安放置は、市場がその矛盾に気づいた瞬間の修正余地が極めて大きい。


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