昨今の中国経済のニュースを見ていると、不動産不況や内需の低迷が深刻化しているのが伝わってくる。投資家として気になるのは、「中国で余った安価な化学品が世界中に溢れ出し、日本のメーカーが価格競争に巻き込まれてボロボロになるのではないか?」という懸念だ。
いわゆる「中国のデフレ輸出」による安売り攻勢だ。私が注目しているKHネオケムも、その直撃を受けるのではないかと心配になり、最新の第3四半期決算短信(2025年11月5日発表)を徹底的に読み解いてみた。
結論から言うと、「懸念はすでに現実のものとなっているが、会社全体としては今のところ大丈夫」だ。そう言える根拠を備忘録としてまとめておく。
1. 現場で起きている「安売り合戦」の正体
まず、私の懸念が的中しているのかどうか、決算短信の記述を確認した。すると、「基礎化学品」セグメントの概況に、非常に明確な言葉でこう記されていた。
「輸入品の国内市場流入による競争激化が収益を圧迫しました」
これは、まさに中国などの海外メーカーが、供給過剰になった化学品を安値で日本市場に流し込んでいる状況を指していると考えて間違いないだろう。その結果、基礎化学品部門の業績は以下の通り、厳しい数字となっている。
- 売上高: 344億80百万円(前年同期比 8.2%減)
- 営業利益: 7億54百万円(前年同期比 38.4%減)
売上の減少以上に利益が4割近くも吹き飛んでおり、安売り合戦の影響が鮮明に出ていることがわかる。ここだけを見ると、非常に不安な気持ちになる。
2. なぜ「会社全体としては大丈夫」と言えるのか?
しかし、ここで落ち着いて全体の数字を見てみる。基礎化学品が苦戦する一方で、会社全体の第3四半期累計の経常利益は82億58百万円で、前年比 15.0%増 と、実はしっかり伸びているのだ。
なぜこのようなことが起きるのか? その理由は、KHネオケムの「利益の構造」にある。
実は、安売り合戦で叩かれている「基礎化学品」は、売上規模こそ全体の約4割を占めるものの、利益で見ると全体のわずか6.8%(本社費控除前)しか稼いでいないのだ。つまり、ここが多少やられたとしても、会社全体の利益を支える「別の柱」が頑丈であれば、屋台骨が揺らぐことはない。
3. 中国を「ライバル」ではなく「顧客」にする強み
その「別の柱」こそが、同社の稼ぎ頭である「機能性材料」セグメントだ。ここには、世界シェアトップクラスのエアコン用冷凍機油原料などが含まれる。 この部門の業績は、基礎化学品とは対照的だ。
- 売上高: 426億69百万円(前年同期比 7.1%増)
- 営業利益: 83億51百万円(前年同期比 25.0%増)
驚くべきことに、この部門の利益は会社全体の利益の75.4%を占めている。さらに特筆すべきは、中国との関係性だ。資料によると、中国では政府の補助金政策によってエアコンの買い替え需要が発生しており、それが同社の冷凍機油原料の販売を押し上げたという。
つまり、汎用品(基礎化学品)では中国の安売りが脅威になっているが、付加価値の高い機能性材料では、むしろ中国は「大切な顧客」として利益をもたらしてくれているのだ。この構造は強い。
4. 品質という名の高い壁:電子材料
もう一つの柱である「電子材料」も堅調だ。半導体市場の回復を背景に、高品質なロジック・メモリー関連の溶剤が伸びている。
- 営業利益: 18億63百万円(前年同期比 2.3%増)
中国などの海外勢が安値で攻めてこようとしても、半導体製造に使われるような高度な化学品には、一朝一夕には真似できない「品質の壁」がある。この壁がある限り、安売り合戦に巻き込まれるリスクは低いと言えるだろう。
5. 株主還元と財務の健全性
業績が堅調なことを背景に、株主還元もしっかり行われている。
- 配当金: 年間105.00円を予定しており、前年の90.00円から大幅な増配となる見込みだ。
- 自己株式の取得: 今期は約50億円規模の自社株買いを実施しており、1株当たりの価値向上にも取り組んでいる。
資産合計は1,241億63百万円、純資産は694億20百万円と、自己資本比率も5割を超えており、財務面での不安も今のところ見当たらない。
結論:当面の着地は「ポジティブ」
確かに、中国経済の不況による「安価な輸入品の流入」は起きており、基礎化学品部門を苦しめている。しかし、KHネオケムという会社を冷静に分析すると、以下の3点が浮き彫りになる。
- 影響を受けているのは利益貢献度の低い部門だけである。
- 利益の8割以上を支える高付加価値製品(冷凍機油や電子材料)は、安売り競争の射程圏外にあり、むしろ伸びている。
- 増配や自社株買いなど、株主への還元姿勢も強い。
今のところ、「中国経済のヤバさ」がKHネオケムの「稼ぐ力」を奪うほどの影響は出ていない、と判断して良さそうだ。もちろん、今後この安売りの波が高機能な製品にまで波及してこないか、引き続き注視は必要だが、現時点での着地としては「過度な心配は不要」と言えるのではないだろうか。


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